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広島高等裁判所松江支部 昭和43年(行コ)1号 判決 1970年9月16日

控訴人 株式会社湖北ベニヤ

被控訴人 松江税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外七名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対してなした昭和三八年二月二八日付法人税額等の更正および加算税の賦課決定による法人税額三〇、二七〇、九〇〇円のうち六三〇、八〇〇円および過少申告加算税額三七、一五〇円のうち三一、五五〇円をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人等は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、以下に付加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、その主張として、

会社更生法(以下単に会社更生法というときは昭和四二年法律第八八号による改正前の同法を指称する。)第五三条によれば、更生会社において会社の事業の経営並びに財産の管理処分の権限は管財人に専属すると定められ、また同法第二四七条によれば、更生計画の遂行は管財人の責任と定められてあつて、更生会社の取締役は更生計画認可後も更生手続終結に至るまでは会社の経営、財産的活動から排斥され、企業者的地位に立てないことが明らかである。(昭和四二年法律第八八号による改正後の会社更生法において更生計画の定め又は裁判所の決定により、取締役に事業の経営、財産の管理処分権を付与し得ることを定めた経緯より見ても、右改正前においては更生会社の取締役がかかる権限を有しなかつたと解すべきである。)

本件においては、炭谷武義、山田正男の両名は管財人との雇傭契約によつて同人の使用人たる地位を兼ねることになつたものであり、管財人が多忙なため、同人等が経営活動の外形を有する業務を担当したことがあつたとしても、それはあくまで管財人の使用人、代理人としての行動に過ぎない。従つて右両名は当時施行中の法人税法施行規則第一〇条の三にいわゆる使用人兼務役員に該当するものといわなければならない。

本件の更生計画によれば、債務完済前に利益処分の性格を有する役員賞与の支給を認めていないので、これを支給することは更生計画に違反することとなる。従つて管財人がかかる違法な支出はしないものと推定すべきであり、これに反する事実を主張するものはその立証責任を負わねばならない。と述べた<立証省略>。

理由

当裁判所においても、控訴人が本件事業年度において炭谷武義、山田正男の両名に支給した合計一、六六〇、〇〇〇円の賞与は、法人税法上損金に算入すべきものではなく、被控訴人がなした法人税額等の更正および加算税の賦課決定は正当であつて、その一部の取消を求める控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は以下に付加するほか、原判決の説示と同一であるから、これをここに引用する。

会社更生手続において更生計画認可決定後更生手続終結に至る迄の会社の事業の経営、財産の管理処分権が管財人に帰属するか或いは更生計画の定めに従い選任され又は留任した取締役(以下新取締役という)に帰属するかについては争いのあるところであるが、原判決が認定した事実及び弁論の全趣旨に照らせば、本件会社更生手続は、更生計画認可後も前記の権限が管財人に帰属するとの見解で運営されたものと認められ、当裁判所も右見解を正当と考える。しかし右見解は、新取締役が取締役としては何等活動の余地がなく、更生会社又は管財人の使用人たる立場で働くか或いは拱手傍観して更生手続の終結を待つべきものというのではなく、寧ろ新取締役は会社更生法上その権限を制限されているとはいえ、あくまで更生会社の経営者であり、その立場で管財人の更生計画の遂行に実質的に協力をなすべきものであり、右のように解することが更生計画認可後における更生手続の過渡的性格に相応し、更生計画の順調な遂行と更生手続終結後において通常の経営状態への円満な復帰を期待し易いものと考える。昭和四二年法律第八八号による会社更生法の一部改正も更生計画認可後における右のごとき実質的関係を更に法律的にたかめ、法律上も新取締役に会社の事業の経営、財産の管理処分権を与え得ることにしたものであつて、右改正前における前記のごとき実質的関係を否定する論拠とはなし得ない。

ところで、本件においては更生計画の実施中、又賀管財人が多忙なため、炭谷、山田の両名が更生会社の新取締役として同管財人の監督のもとに実質的に更生会社の経営活動に従事していたものであること原判決が詳細に説示するとおりであり、原判決の認定に対する控訴人の反論を仔細に検討しても原判決の認定を覆えし、炭谷、山田の両名が更生会社又は又賀管財人の使用人立場で業務に従事していたものと認めることはできず、また当審証人山田正男の証言中、右両名が又賀管財人に雇傭され、同管財人の使用人として働いた旨の部分はたやすく措信できない。

以上の判断に従えば、炭谷、山田の両取締役に対する本件賞与は、右両名が実質的に更生会社の経営者として活動し、相当の収益をあげたことに対する褒賞として支給されたものと認むべく、当時施行中の法人税法施行規則第一〇条の四(昭和三四年政令第八六号により改正されたもの)に従い、法人税法上これを損金に算入することができず、益金として処理さるべきものといわざるを得ない。

これに対して控訴人は、利益処分としての役員賞与の支給は更生計画上認められず、かかる支出は同計画違反の違法な支出となるから、管財人はかような違法支出をしないものと推定すべきであり、結局右支出は更生会社の経費として損金性を認めるべきであると主張する。なる程成立に争いのない甲第一号証によれば、本件更生計画上営業剰余金は更生債権の弁済にあてられることと定められ、それ以外の利益処分は予定されていないので、更生手続中の取締役に役員賞与を支給することの当否に関しては多少の疑問がある。しかし、右甲第一号証、成立に争いのない同第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件更生計画では債務の弁済資金にあてるべき営業剰余金を年間約六四五万円と見込んでいたところ、本件事業年度ではこれを遥かに上廻る約七、六〇〇万円の利益をあげたことが認められ、かつ炭谷、山田の両取締役の立場を前記のごとく解するならば、管財人が右営業成績をあげるのに功績のあつた両名に対し賞与の支給を承認することは、更生手続上会社の事業の経営に関する費用(会社更生法第二〇八条第二号所定の共益債権に該当)の弁済として適法な支出と解する余地があるとともに、更生手続上費用とされる支出だからといつて法人税法上当然にこれを損金に算入すべきものということはできず、これが前記のごとく実質的にも形式的にも役員賞与の支給である以上、法人税法の立場からは益金として処理するのほかなく、更生手続上の経費とされるものが法人税法上益金とされることは法的評価の相対性からみてやむを得ないものというべきである。従つて前記両名に対する賞与の支給を法人税法上益金とすれば、更生計画に違反する違法な利益処分となるから、右賞与の支給は法人税法上も経費として損金性を認めるべきであるとの控訴人の主張はたやすくこれを採用することができない。

されば控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第一項に則り本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法第九五条第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 牛尾守三 後藤文彦 右田尭雄)

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